DIASによるデータ解析でチュニジアの洪水対策に貢献
"Majrda testour" CC BY-SA 3.0 via wikimedia commons
要旨
東京大学では、国際協力機構(JICA)の要請を受け、チュニジア国のメジェルダ川(チュニジア国の最長の河川)流域における、大洪水の発生頻度の分析と将来の気候変動の影響による洪水被害の分析を行いました。これには、多種多様で膨大なデータの取得と解析が必要であり、データ統合解析システム(DIAS)がこれを支援しました。この解析結果がチュニジア国で大きく評価され、2014年7月17日に、チュニジア国政府とJICAの間で、「メジェルダ川洪水対策事業」の円借款貸付契約が結ばれ、DIASが国際貢献に大きく寄与しました。参考:JICAプレスリリース
背景と課題
チュニジア共和国では、国土の半分が半乾燥気候条件下にありますが、メジェルダ川の水を利用し農業・畜産業が営まれています。近年メジェルダ川では集中豪雨が頻発し、なかでも2003年1月に発生した大洪水では10名の死亡者、27,000人の避難者が発生したほか、湛水期間が1ヶ月以上続いたため、農作物、家屋等への被害のほか、交通遮断等も含めた社会的・経済的に甚大な損害を蒙りました。
こうした大規模洪水は、農作物、社会基盤設備や家屋等の物質的損失に留まらず、経済活動の停滞や災害をきっかけとした貧困の増加等、経済的・社会的損失を伴い、国が持続可能な開発を達成する上でのリスク要因の一つとなっています。このように将来におけるメジェルダ川の洪水対策はチュニジアの経済開発を円滑に進める上での喫緊の課題となっています。
研究手法/アプローチ
まず、DIASに、衛星観測・地上観測・モデル出力データのように多種多様なデータを収集しました。これらは、トータルで約50テラバイトのディスク空間を必要としました。次に、流出モデル(流域内にどのように水が流れるか)や、気候変動予測データ(CMIP3)の18のモデル出力からチュニジアの気候を表現できる能力があるモデル出力を選ぶシステム、ダムの最適な運用を支援するシステムを用いて、
(1) 河川改修計画の際に対象とする降雨や水位の計算
(2) 将来気候変動影響の評価
(3) ダムの最適運用に係る検討
を実施しました。
成果
成果の一部を示します。特に、(2)の将来気候変動影響の評価では、DIASで開発されたWebベースのシステム(http://dias.tkl.iis.u-tokyo.ac.jp/model-eval/stable/top.cgi)が大きく貢献しました。気候変動予測モデル(CMIP3)データ、衛星観測データ、地上観測降水量データ等のフォーマットが多様で量が膨大なデータに対して、ユーザは解析領域の確保やデータ変換、プログラミングをすることなく、Webインタフェース上でのマウス操作のみで、将来の降水量の特性を高精度、且つ少労力で計算することができました(図1)。
この解析により、将来メジェルダ川では明瞭な渇水化傾向が示されました(図2)。
今後の展望
これらのDIASを用いた解析結果が評価され、チュニジア国政府とJICAの間で、「メジェルダ川洪水対策事業」の円借款貸付契約が結ばれました。この事業を通じ、メジェルダ川流域における河川改修等のインフラ整備や、洪水対策機能の強化、洪水被害の軽減および地域住民の生活環境の改善が図られます。