DIASシンポジウム2019-2020 Online開催報告
2020年3月27日、「地球環境データを用いた社会課題解決に向けて」と題し、DIASシンポジウム2019-2020 Onlineを開催しました。昨今の感染症拡大を鑑み、急きょ当初の予定を変更して一部講演をオンラインにて実施し、延べ151人の方に参加いただき、盛況のうちに終了することができました。
開催要旨
日時: 2020年3月27日(金)13:30~14:55
場所:Web会議システムをもちいたオンライン開催
参加者: 151名(民間企業、研究機関、教育機関、団体等)
結果概要
冒頭、DIASプロジェクトマネジャーである本郷 尚 三井物産戦略研究所シニア研究フェローより開会挨拶があり、新型コロナウイルスの影響によりお亡くなりになった方への哀悼の意を表するとともに、本シンポジウムが、2020年度に最終年度を迎える第3期DIASをより深く知る良い機会となり、研究者ネットワークをさらに拡大していくことで、DIASが社会課題解決に貢献していけるよう期待を述べました。
(開会挨拶全文は、こちらからお読みいただけます。)
特別講演として、池内幸司 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 教授(東京大学地球観測データ統融合連携研究機構長)、舘山一孝 北見工業大学地球環境工学科 准教授、喜連川 優 東京大学生産技術研究所 教授(国立情報学研究所 所長)の3名にご講演いただきました。
講演要旨
特別講演1:「2019年台風19号等による豪雨災害の教訓とDIASを活用した防災・減災対策」
池内幸司 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 教授(東京大学地球観測データ統融合連携研究機構長)
昨年の台風19号とそれに伴う河川氾濫の特徴は、記録的な雨量であり、多くの地域で観測史上最高記録を更新したという点と、大河川・中小河川両方で堤防決壊が起きたという点である。
特に、中小河川においては「バックウォーター現象」(合流するはずの大河川の流量が多すぎるために、中小河川の水が合流できずに流れを戻ってしまい、結果として浸水が起きる現象)が起きた例もあり、「目の前の川」だけでなく、関係する河川にも注意するべきであるという教訓を得た。
激甚化する水害に対して、DIASを用いた防災・減災を目指した取り組みの中から、主に3つのプロジェクトを紹介する。
- :気候変動に適応した治水計画・施設設計
d4PDFのデータセットを活用し、将来的な洪水被害の頻度予測や、洪水災害曝露人口の予測を実施。また、予測の過程でバイアス補正データセットも作成し、利用促進のための活動も行っている。 - :電力ダムの利水容量を活用した治水対策、発電効率の向上
電力会社等と協力し、39時間先までのアンサンブル洪水予測を使って、利水ダム(発電ダム)に治水機能を持たせるとともに、発電効率を向上させるためのダムの運用方法と操作技術を、DIASを使って開発。洪水が来るおそれがある際に、ダムの容量をあらかじめ空けておくことで、河川の氾濫を防ぐばかりでなく、発電効率の向上が見込まれている。 - :中小河川における洪水予測システム等の開発
元来、中小河川は「フラッシュフラッド」と呼ばれる現象(突発的な出水)が起きるために、洪水の予測が難しいと言われている。しかし、この状況の改善を試みるべく、国土交通省がコンペ形式で「危機管理型水位計」を開発。
DIASでは、この危機管理型水位計から取得されたデータを取り込み、他のモデルと組み合わせたうえで洪水の6時間前予測を行う手法を開発した。現在、実際にデータを収集して試験運用を行っているが、さらなる予測精度の向上を目指している。
特別講演2:「気象・海象現象の観光資源化促進 DIASを利用した蜃気楼・流氷情報ツール「知床ポータル」の開発」
舘山一孝 北見工業大学地球環境工学科 准教授
オホーツク海沿岸は、流氷を世界で最も低緯度で観測でき、日本で唯一流氷の蜃気楼を見られる地域である。
北見工業大学では独自の気象観測網を活用し、「蜃気楼予測モデル」の研究を実施している。
「知床ポータル」は、沿岸各所に気象計・カメラを設置し、極端な気温差を観測することで、蜃気楼発生を予測・検証する。取得したデータを、モバイルSI-NETなど使用してDIASへ送り、DIAS上に開発したアプリケーションから蜃気楼発生の予測結果などを閲覧できる仕組みである。研究目的だけでなく、水産資源への応用、現地の新しい観光資源としての利用を想定し、2020年度4月には試験運用を開始し、年度内には一般公開を目指している。
○参考資料
http://japan-mirage.org/toyama_seminar_1-8/
特別講演3:「COVID-19時の教育 中国に学ぶ」「30年余にわたる地球環境データプラットフォームの構築 =30年前に考えたこと、現在、そして展望=」
喜連川 優 東京大学生産技術研究所 教授(国立情報学研究所 所長)
○COVID-19時の教育 中国に学ぶ
新型コロナウイルスの流行により、中国では商品需要やネットワークの使用などで新たな潮流が起きつつある。日本でも、オンラインでの講義、学会、行事の開催などが増えつつあり、オンラインでの実施による地域格差解消や、ワークライフバランス上でのメリットなど新たな気づきもあった。
○30年余にわたる地球環境データプラットフォームの構築 =30年前に考えたこと、現在、そして展望=
DIASは、3つの強みを有するプラットフォームである。リアルタイム性、APIがリッチである(数多く備えられている)という点、IT技術のコンサルテーション体制を有するという点である。リアルタイムのデータで自分のアルゴリズムが動くかどうかが端的に分かってしまうことから、DIASはいわば「力比べの場」、「強い競争の場」である。
現在、DIASユーザーは7,000人ほどに増加し、半分が日本、半分が海外に在籍している。磁石の役割を果たし、グローバルにユーザーのコラボレーションを引き寄せてきた。
世界的に研究プロジェクトの大型化が進むなか、プロジェクトマネージャーがプロジェクト成功の鍵となっている。DIASは、厳密にはプロジェクトマネージャーではないが、多様な方々の取り組みを支援できる人材が多数集まっている。ぜひ気軽にご相談いただきたい。
その他、シンポジウム特設ページにて、当日発表を予定していた先生方による資料の公開と、DIASの紹介動画の掲載を行っております。あわせてご覧ください。
今回、オンライン開催への変更によって、パネルディスカッション、ポスター展示等での意見交換を行うことは叶いませんでしたが、アンケートを通してご参加いただいた皆様から広く意見をいただくことができました。今後、いただいた貴重なご意見をもとに、引き続きDIASの取り組みを改善してまいります。
DIASの取り組み
当日のLIVE配信スケジュール
13:30-14:15 | 2019年台風19号等による豪雨災害の教訓とDIASを活用した防災・減災対策 池内 幸司 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 教授、東京大学地球観測データ統融合連携研究機構長 1982年東京⼤学⼤学院⼯学系研究科修⼠課程修了後、建設省に⼊省。内閣府(防災担当)参事官、国⼟交通省河川計画課⻑、近畿地⽅整備局⻑、⽔管理・国⼟保全局⻑、技監、国⼟交通省顧問などを経て2016年10⽉より現職。京都⼤学客員教授、神戸大学客員教授、筑波⼤学客員教授、⽇本⼤学客員教授、東京⼯業⼤学⾮常勤講師、中央⼤学兼任講師などを歴任。専⾨分野は、⽔害等の⾃然災害に対する防災・減災対策、良好な河川環境の保全・復元、⽼朽化が進むインフラの戦略的な維持管理・更新など。博⼠(⼯学)(東京⼤学)、技術⼠(総合技術監理部⾨、建設部⾨) |
14:15-14:30 | 気象・海象現象の観光資源化促進 DIASを利用した蜃気楼・流氷情報ツール「知床ポータル」の開発 舘山 一孝 北見工業大学地球環境工学科 准教授 2001年北見工業大学大学院工学研究科博士後期課程システム工学専攻修了、工学博士。株式会社オホーツク流氷科学研究所海洋開発部研究開発課研究員、北海道大学低温科学研究所附属流氷研究施設特別研究員などを経て2012年より現職。専門は力学、リモートセンシング論、寒冷地環境科学概論等。 |
14:30-14:45 | COVID-19時の教育 中国に学ぶ 喜連川 優 国立情報学研究所 所長/東京大学生産技術研究所 教授 1983年東京大学博士課程修了。工学博士。講師、助教授を経て現在同大教授および国立情報学研究所所長。ビッグデータの基盤技術開発やプラットフォーム構築を推進し、DIAS第1,2期、「情報爆発」特定領域研究、情報大航海、最先端研究支援プログラム(FIRST)等国家プロジェクトを多数先導。情報処理学会会長、日本学術会議情報学委員会委員長等を歴任。専門はデータベース工学。 |
14:45-14:50 クロージング | 司会 向井田 明(一財)リモート・センシング技術センター DIAS推進室 室長 1993年RESTEC入社後、JAXA地球観測衛星、地球観測プラットフォーム技術衛星" みどり"及び"みどり2号"、陸域観測技術衛星"だいち"などの運用、データ解析 にたずさわる。特に"だいち"では東日本大震災をはじめとした災害に対応した。現在、"だいち2号"等、地球観測衛星のデータ配布およびソリューション提供業務を担当。 |
発表資料ダウンロード
講演を予定していた登壇者の発表資料を下記のリンクよりダウンロードいただけます。
「質の高い成長」へ向けた水情報の統融合 資料ダウンロード(PDF) 小池 俊雄 国立研究開発法人土木研究所 水災害・リスクマネジメント国際センター (ICHARM) センター長 ICHARMセンター長、東京大学名誉教授、日本学術会議会員。社会整備審議会河川分科会会長、日本学術会議の防災関連委員会委員長等を兼任。専門は河川工学、水循環の科学、環境心理学。DIASの開発を主導するとともに、河川流域規模から地球規模の水循環の観測や予測研究を進める傍ら、合意形成を目的とした環境評価や行動に関する心理プロセスの研究を基に河川事業に関わる合意形成の実務に貢献。IPCC2007年ノーベル平和賞受賞貢献感謝状(2007)、中国科学院アインシュタイン教授賞(2009)、2010年日本水大賞国際貢献賞(2010)、水文・水資源学会学術賞(2015)等を受賞。 |
水災害発生後の被害推定と、企業活動誘導;マルチエージェント深層強化学習を用いた企業モデリング 資料ダウンロード(PDF) 柴崎 亮介 東京大学空間情報科学研究センター 教授 都市から国スケールでの人流・車流マッピング、観測データとシミュレーションモデルを同化によるナウキャスト・フォアキャスト技術などに関する研究を進めている。また地理空間情報の流通や統合による価値創造を進めるG空間情報センターを主宰。 |
気候変動下で甚大化する佐賀平野の高潮災害に対する適応策の立案に向けた検討 資料ダウンロード(PDF) 橋本 典明 九州大学大学院工学研究院付属アジア防災研究センター 教授 1981年九州大学大学院工学研究科修士課程修了後、運輸省に入省。運輸省港湾技術研究所海洋エネルギー利用研究室長、水理研究室長、独立行政法人港湾空港技術研究所海洋水理・高潮研究室長などを経て、2005年より現職。専門分野は海岸工学で、これまで沿岸海象の観測調査法と解析技術の開発および沿岸海象の特性解明と予測技術の開発を長年にわたり実施してきた。近年は、気候変動に伴い甚大化する沿岸災害に対する適応策に向けた研究を実施している。博士(工学)(九州大学)。 |
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DIAS事務局:
一般財団法人リモート・センシング技術センター