DIAS公開シンポジウム開催報告

 
令和3年度から第4期が開始されたDIAS事業の公開シンポジウムを2022年12月7日(水)に開催しました。「DIASから広がる新たな価値創造」をテーマに、民間企業や国の研究機関におけるDIASの地球環境ビッグデータ・計算機基盤を活用した取り組み、第4期に試験公開・先行公開を開始した2つのアプリケーションの展開、DIASのプラットフォームで公開した「気候予測データセット2022」に関する講演を行い、239名の方にご視聴いただきました。
 

開催要旨

日時:2022年12月7日(水)13:00 – 16:25
開催方法:オンライン
 

当日講演資料

こちらからご参照いただけます。

 

講演概要

開会挨拶
登壇者:久芳全晴(文部科学省 研究開発局 環境エネルギー課 環境科学技術推進官)

久芳環境科学技術推進官による開会挨拶では、これまで日本が気候変動の緩和・適応策を検討する際に重要な基盤となってきたとDIASを位置付けました。さらに、今後もこの歩みを発展させ、社会に新たな価値を提供するオープンインキュベーションプラットフォームとすべく、文部科学省としても引き続きDIASの環境整備に努めていきたいと抱負を述べました。


久芳全晴 文部科学省 研究開発局 環境エネルギー課 環境科学技術推進官

 

基調講演「総合商社双日のデジタルを活用した事業価値創造/向上」
登壇者:荒川朋美(双日株式会社 執行役員 / Chief Digital Officer)


荒川朋美 双日株式会社 執行役員 / Chief Digital Officer

基調講演では、荒川氏よりデータや新たなデジタル技術で事業価値の創造・向上を狙う同社の取り組みが3つ紹介されました。1つめは中古車事業です。デジタルツイン技術を用い、遠方にいる購入者にも中古車の状態を確認可能とすることで、業界の高コスト構造を変革し、査定の標準化を目指します。2つめは、マグロ養殖事業です。生育過程や尾数の把握が難しく生産コストがかさみがちなマグロを対象に、センサーやデジタルツイン技術、機械学習を活用して実態を捉え、生産管理を効率化する試みです。3つめは、東南アジアの営農事業です。工業化の遅れているタイの農家にデータプラットフォームを導入し、衛星データやドローンなどの技術で産業構造の課題解決を狙います。荒川氏は、すべてがデジタル化する時代、企業も自分たちの利益だけでなく社会全体を考える必要があるとして話を締めくくりました。


荒川朋美 双日株式会社 執行役員 / Chief Digital Officer「さらなるテクノロジーとデータの活用を目指して」

 

第4期DIAS事業の目指すもの
登壇者:石川洋一(海洋研究開発機構 地球情報科学技術センター センター長)


石川洋一 海洋研究開発機構 地球情報科学技術センター センター長

今期DIAS事業の実施責任者である石川から、第4期DIASが掲げる目標について発表しました。それは(1)DIASがこれまで構築してきた情報基盤を活用し、地球科学と情報科学を融合させた研究開発をさらに発展させること、(2)広範な分野から研究者・技術者が集う場を形成し、萌芽的な研究を促進するオープンプラットフォームを構築すること、(3)常に変化するユーザーニーズに応えられる長期・安定的な運用体制を確立すること―の3つであり、進捗中のプロジェクトについてもあわせて紹介しました。特に(2)のオープンプラットフォームにつながる共同研究課題の募集について、DIASのリソースを社会実装につなげる提案を歓迎したいと述べました。また、第4回アジア・太平洋水サミット(熊本水サミット)における岸田首相のスピーチやUNESCOの発表などでDIASの存在や活用事例が紹介されていると報告しました。


石川洋一 海洋研究開発機構 地球情報科学技術センター センター長「第4期DIAS事業の全体像」

 

講演1「『リアルタイム浸水予測システムS-uiPS』が社会に果たす役割」
登壇者:関根正人(早稲田大学理工学術院 教授)


関根正人 早稲田大学理工学術院 教授

講演1では、DIASで令和4年9月1日より先行公開中のリアルタイム浸水予測システム「S-uiPS(Sekine’s urban inundation Prediction System)」について、関根教授から報告がありました。S-uiPSは、地球規模の気候変動と気象の極端化により都市浸水の危険が高まる東京都23区を対象に浸水予測をするシステムで、適切な避難行動・対策を取るよう住民を導き、浸水被害を最小化することを目的として、開発が進められています。関根教授は、S-uiPSの予測手法や具体的な計算方法など について動画をまじえながら説明するとともに、システムの精度をより高めるため、できるだけ多くの研究者や公的機関等に先行公開版を利用し、フィードバックしてほしいと協力を呼びかけました。


関根正人 早稲田大学理工学術院 教授「先行公開されているリアルタイム版S-uiPSの公開画面」

 

招待講演「防災情報流通・生成・利活用技術の研究開発~ SIP4Dをコアとした研究開発の展開~」
登壇者:田口仁(防災科学技術研究所 理事長補佐 / 防災情報研究部門 副部門長)


田口仁 防災科学技術研究所 理事長補佐 / 防災情報研究部門 副部門長

田口氏による招待講演として、防災情報の生成・流通・利活用に向けた研究開発と社会実装に関する発表がありました。話の軸は、内閣府・戦略的イノベーション創造プログラム(SIP:Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program)において構築された「基盤的防災情報流通ネットワーク(SIP4D:Shared Information Platform for Disaster Management)」です。SIP4Dは災害現場と関連機関をつないで適切な情報収集・情報共有を可能にし、関係者の状況認識を統一する目的で作られたネットワークで、国の防災基本計画にも位置付けられています。講演ではSIP4Dの枠組みや、それを支えるツール・チーム・ルールに関する説明がありました。現在はSIP4Dの成果を発展させ、社会動態もあわせて観測することで災害時の意思決定を支援する「CPS4D(Cyber-Physical System for Disaster Resilience)」プロジェクトと、衛星データで被災状況を早期に把握可能にするプロジェクトを進めていると説明されました。田口氏は、研究と現場の間でフィードバックループを作るにあたっては、人的リソース、ツール、データが集まるDIASのようなプラットフォームが力を発揮するとして期待を述べました。


田口仁 防災科学技術研究所 理事長補佐 / 防災情報研究部門 副部門長「SIP4D(基盤的防災情報流通ネットワーク)」

 

講演2「気候予測データセット2022について」
登壇者:久芳全晴(文部科学省 研究開発局 環境エネルギー課 環境科学技術推進官)

久芳氏の講演では、DIASで公開予定の「気候予測データセット2022」に関して報告がされました(12月22日公開)。気候予測データを気候変動対策へ広く積極的に活用する重要性が高まっていることから、文部科学省は同省をはじめとする各機関の作成したデータセットを取りまとめ、解説書とセットで公開するとのこと、また、このデータセット作成にあたっては、ユーザーニーズ把握のために調査を実施し、2℃・4℃上昇シナリオや高解像度、多アンサンブル、連続実験などのデータにニーズがあることが明らかになったとのことです。今後定期的に実施予定の「気候変動影響評価」で本データセットが気候予測シナリオ(※)として活用されることを目指します。久芳氏は、文部科学省は今後も気候予測データに力を入れていくとし、気候変動対策が公助のみならず共助・自助の段階でも進むよう願っていると話しました。

※「気候予測シナリオ」について詳しくは、以下の記事もご覧ください。
数十年に一度の大雨が異常ではない時代に、不確かな未来をどう予測するか?―長期気候変動推計データセットd4PDFの挑戦 | データ統合・解析システム(DIAS)

久芳全晴 文部科学省 研究開発局 環境エネルギー課 環境科学技術推進官「気候変動対策までのデータバリューチェーン」

 

講演3「データ駆動発見型観光の可能性」
登壇者:三枝昌弘(北見工業大学 社会連携推進センター 准教授)


三枝昌弘 北見工業大学 社会連携推進センター 准教授

三枝准教授による講演では、データ駆動発見型観光をテーマとした研究「絶景プロジェクト」が紹介されました。北海道北見市は寒冷で、オホーツク地域特有の自然現象が観測でき、観光資源化の可能性を秘めています。そこで自然現象の監視・発生予測をし、情報発信によるブランディングでビジネスモデル化する研究を、帯広畜産大学・北見工業大学・小樽商科大学などの異分野混合チームで行っています。自然現象の観測にはDIASが協力し、令和元年度より温度計や気象計、カメラを段階的に設置しました。さらに、令和4年3月よりDIAS上で現地の蜃気楼発生予測などが見られる一般向けアプリ「絶景予測-Zekkei Explorer」の試験運用を開始しています。今後は観測地点を増やし、蜃気楼以外の自然現象も発生予測の対象としていく予定です。三枝准教授は自然現象予測に用いている計算方法などを説明するとともに、現在は雲海の発生予測をするアルゴリズムの開発に着手したところだと話しました。

 

閉会挨拶
登壇者:河野健(海洋研究開発機構 理事)


河野健 海洋研究開発機構 理事

河野理事は閉会挨拶として、DIASのこれまでを振り返りながら本公開シンポジウムを総括しました。「DIASでは2006年の事業開始以来、地球観測データを集めるだけでなく、使う人の利便性を考え、加工して提供してきました。本日の各講演で語られたとおり、DIASのデータは現在、行政のみならず産業界でも用いられ、経済活動に寄与しています。このような現状はDIASの歩みが正しかった証左です」と話し、会を締めくくりました。

DIASは今後も様々な分野が交わり「気づき」を生み出す場としての期待にこたえるべく、引き続き取り組みを進めてまいります。

 

プログラム

13:00
開会挨拶
久芳 全晴(文部科学省 研究開発局 環境エネルギー課 環境科学技術推進官)
13:05
基調講演
荒川 朋美(双日株式会社 執行役員 / Chief Digital Officer)
講演資料
13:45
第4期DIAS事業の目指すもの
石川 洋一(海洋研究開発機構 地球情報科学技術センター センター長)
講演資料
14:00
講演1
関根 正人(早稲田大学理工学術院 教授)
※講演資料非公開
14:30
休憩
14:40
招待講演
田口 仁(防災科学技術研究所 理事長補佐 / 防災情報研究部門 副部門長)
講演資料
15:20
講演2
久芳 全晴(文部科学省 研究開発局 環境エネルギー課 環境科学技術推進官)
講演資料
15:50
講演3
三枝 昌弘(北見工業大学 社会連携推進センター 准教授)
※講演資料非公開
16:20
閉会挨拶
河野 健(海洋研究開発機構 理事)

 

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