水力発電分野では、ダム下流の洪水危険度を増すような異常放流を回避するためのダム操作の信頼性向上と、発電のための河川流水の効率的な利用(増電力)を支援する情報の提供が求められています。また、既存の観測のみからでは充分に把握できていない融雪流出について、その予測情報の精度を向上することにより、融雪期の効果的なダム操作を支援し、年間を通じた発電効率の向上も重要な課題です。

これらのことから、事前放流を含む新たなダム操作の安全性の確度を向上することにより、ダムの弾力的、効果的な操作の可能性を見出し、洪水リスクの低減と水資源の効果的利用を両立させるための技術として、河川の流量やダムの水位をリアルタイムかつ詳細に予測することが可能な水課題アプリケーションの開発の重要性が高まっています。

そこで、本研究では、下記の二つの水課題アプリケーション及びアプリケーション開発用の基盤システムの開発を行うとともに、これらのアプリケーションをDIAS上に実装し、広くユーザに公開していきます。また、これらのアプリケーション開発に加え、地球環境情報プラットフォーム構築機関と協力してその他の分野に対しても有用な情報の提供の可能性を目指します。

1.水力発電用アプリケーションの開発
2.洪水概況予測用アプリケーションの開発
3.避難指示・河川管理用アプリケーション開発のための基盤システム構築
4.地球環境情報プラットフォーム構築機関との協力による他分野への展開

1.水力発電用アプリケーションの開発

中部電力株式会社と東京電力ホールディングス株式会社が水力発電施設を有する大井川上流域と信濃川支流犀川上流域を対象に、水力発電分野を対象として、特に洪水に対して安全で、水力発電にとって効率的なダム操作支援情報の提供を可能とする水力発電用アプリケーションを開発します。当該アプリケーションの開発にあたっては、必要な以下の研究開発を行います。

a.データの品質管理技術の開発
b.平常時における水循環シミュレーション技術の開発
c.不確実性を考慮した降雨量予測技術の開発及び本技術を用いた高精度洪水予測シミュレーション技術の開発
d.洪水期におけるダム放流操作の信頼性向上と発電効率の向上のためのダム操作技術の開発
e.降雪・積雪・融雪・流出を考慮した包括的な河川流出予測シミュレーション技術
f.融雪流出を考慮した年間を通した発電効率の向上のためのダム操作技術の開発
g.水課題アプリケーション(水力発電用)の開発・実装

研究実施体制

月例研究会の様子研究の推進に当たっては、毎月研究会を開催し関係者間で各研究プロジェクトの進捗を共有する他、年2回開催されるDIASの公開フォーラムにおいても、最新の進捗状況を発表しています。


 

アンサンブル予測を用いた大井川・犀川流域の降雨予測:土木研究所

豪雨のピンポイント/リアルタイム予測に向けた雲同化システム:東京工業大学

背景
高精度な洪水予測・警報システムや貯水池操作の最適化には、降水の時間特性に加えて,数時間先に降水域が河川流域の中に生じるか否かという細かな空間分布の予測情報が不可欠である。しかし、降水位置の精度は最先端の現業予測でも不十分である。降水域の予測精度の向上には広範囲で均質に得られる雲の衛星観測を予測モデルに同化することで、水が発生する前に、降水を生ずる雲の位置と量を適切に表現することが有効である。

課題
しかし、陸上の雲は強く不均一な陸面射出ゆえに衛星から捉え難く、世界中の現業機関でも同化されていない。雲を精度良く捉えるには陸面からの背景射出を高精度に表現することが必要である。

解決法・目的
本研究では大気-陸面の結合系で、両者を同時に同化することの可能なシステム(大気-陸面結合データ同化システム)を開発した。大気-陸面結合データ同化システムは、感度の異なる複数の波長の衛星マイクロ波を用いて、土壌水分・雲水量・雲域内大気を衛星から同時に捉え、予測モデルに取り込むことで、高精度な降水予測を行うシステムである。

水循環シミュレーション水文モデル(WEB-DHM)開発:東京大学・土木研究所

WEB-DHM(Water and Energy Budget-based. Distributed Hydrological Model)
水エネルギー収支分布型水循環モデルの特徴

陸面モデル:
陸面からの蒸発散や水の浸透など水・エネルギー・炭素の収支を表現した数値モデル。用途に応じて多くの陸面モデルが開発されているが、本システムではNASAによって開発されたSiB (Simple Biosphere Model) をもとに東京大学で、粗な植生、雪や凍土の影響を考慮し改良した陸面モデルを採用し陸域の水文量を推定。

土壌水分の鉛直分布:
土中の水の浸透を詳細に計算するモデルを用いて計算。土中の水の動きに影響を及ぼす河川水位、帯水層(地下水によって飽和している層) 、植生、凍土の影響などの相互作用を詳細に表現できるよう多層で表現できるように改良。

斜面効果:
豪雨時の洪水ピーク流量を表面流と中間流に分けて考える。
分割流域内の斜面は、それぞれの流末からの距離に基づいたflow intervalにより、細かく分割。

河道網:Pfafstetter の考え方に基づき作成。流出計算は、各グリッド内を流れる河道とその両側を挟む複数の斜面要素で行われる。GBHMを用いて各斜面要素からの表面流出・中間流出・地下水流出が計算される。その後、flow interval毎にまとめられた仮想的な河道に沿って上流側から逐次流下計算が行われる。

 

WEB-DHM用システム開発:日本工営株式会社・東京大学/犀川への適用:土木研究所
  • DEMを用いた自動流域作成&河道作成機能
  • 流域モデルの作成精度を高めるための、国土数値情報の河道ラインを基にした自動流域作成機能
  • Pfafstetterの手法による流域分割機能
  • 分割流域最下流端からの等距離図の自動作成機能
  • 国土地理院、USGS、FAOなどの地理情報の読み込みと一次処理機能
  • 地理院マップとの重ね合わせ機能
  • Google Earthで表示出来るKML出力機能
  • ArcGIS、QGISなどとのデータ互換

犀川へのNK-GIASを用いたWEB-DHM用流域自動作成ツールの適用

WEB-DHM Online Prediction System Diagram

積雪融雪を考慮した水循環モデル(WEB-DHM-S)の大井川流域への適用:土木研究所

目的 :ダム操作の安全性の確度を向上させダムの弾力的、効果的な操作の可能性を見出し、洪水リスクの低減と水資源の効果的利用を両立させる

利用データ:AMeDAS(気象庁)、長期再解析データ(JRA55)、衛星観測(Terra MODIA (MOD10A2))、観測降水量・流量(中部電力)


 

2.洪水概況予測用アプリケーションの開発

現行のリアルタイム高解像度日本域洪水予測システムの高度化を図り、全国規模で洪水の概況を予測する洪水概況予測用アプリケーションを開発し、DIASに実装します。当該アプリケーションにあたっては以下の研究開発を実施します。

a.リアルタイム高解像度日本域洪水予測システムの要件の整理
b.入力システムの高度化と実装
c.要素モデルの高度化と実装
d.水課題アプリケーション(洪水概況予測用)の開発・実装

日本全域アンサンブル洪水予測システムの構築:東京大学

日本域高解像度予測システムの構築
最新のモデルとデータを用いて洪水を39時間前から予測するシステムを構築

  • 2017年台風21号による近畿地方の洪水被害の本システムによる予測事例
    和歌山県紀の川、福井県北川、大阪府/奈良県大和川、京都府由良川および桂川等多くの河川で氾濫危険水位を超過、氾濫被害があった。→桂川や由良川、北川をはじめとした流域で24時間以上前から洪水発生を予測した
  • 2015年関東・東北豪雨による鬼怒大洪水時の本システムによる予測事例
    2015年9月に発生した鬼怒川洪水:10日午前6時ごろに越水による浸水、同日午後1時ごろには破堤が発生→本システムは39時間前に洪水発生を示唆、15時間前には高い確度で洪水を予測した

 

3.避難指示・河川管理用アプリケーション開発のための基盤システム構築

氾濫モデル、土砂生産・流出モデル及び水温モデルを開発することで、洪水時における住民への避難指示や土砂、水質管理などを含めた河川管理に関するニーズに応える基盤システムを構築し、DIASに実装します。基盤システムの開発にあたっては、以下の研究開発を行います。

a.要素技術の汎用化
b.基盤システムの利用の支援

大井川における土砂流出に関するサブモデル開発:土木研究所


 

4.地球環境情報プラットフォーム構築機関との協力による他分野への展開

3a.においてモジュール化された要素技術や開発されたツールを上記で対象としていない他分野のアプリケーション開発に利用されるよう、プラットフォーム構築機関と協力しつつ、積極的に利用者を探索し、必要な技術支援を行います。