2022年5月20日

DIASコミュニティフォーラム2022開催報告

 
「DIASコミュニティフォーラム2022」を3月9日(水)に開催しました。 令和3年度から第4期に突入したDIAS事業について、気候変動をはじめ、金融・防災・ヘルスケア等の幅広い分野のゲストを招いて議論を行い、236名の方にご視聴いただきました。「データバリューチェーン」を大きなテーマとし、DIASが有する地球環境ビッグデータ・計算機基盤を活用した新たなビジネス創出の可能性について、活発な意見が交わされました。
 

開催要旨

日時:2022年3月9日(水)13:30 – 16:40
開催方法:オンライン開催(Zoomウェビナー)
後援:国立環境研究所気候変動適応センター、気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)、Future Earth 国際事務局日本ハブ

ポスター

DIASコミュニティフォーラム2022のポスターはこちらからご覧ください。
 

当日講演資料

こちらからご参照いただけます。
 

結果概要

来賓挨拶
登壇者:堀内義規(文部科学省大臣官房審議官(研究開発局担当))

堀内義規氏(文部科学省大臣官房審議官(研究開発局担当))による来賓挨拶では、気候変動の影響を改めて重く受け止めた上で、クリーンエネルギー戦略の検討や、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Taskforce on Climate-related Financial Disclosures)」の提言への対応など、文部科学省として積極的に貢献したいと述べられました。また自然資本や生物多様性に対する国際的な枠組みである「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD:Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)」について、そのような意思決定に寄与するインテリジェンスとしてDIASが開発されてきたと述べられ、今後もDIASはオープンなインキュベーション・プラットフォームとして、活発な共同研究の場にしていきたいと期待を寄せていただきました。


堀内義規氏(文部科学省大臣官房審議官(研究開発局担当))による来賓挨拶の模様

 

基調講演「DIAS-社会的課題克服のためのプラットフォームへの期待」
登壇者:本郷尚(三井物産戦略研究所 シニア研究フェロー)

最初の基調講演では、三井物産戦略研究所 シニア研究フェローの本郷尚氏より、第3期DIASのプロジェクト・マネージャーとしての振り返りがなされました。第3期DIASは「社会実装」をテーマに、企業や自治体へのデータ提供を進めてきました。その中でDIASの最終目的はデータの利用者である国民の「厚生」の向上であるとし、その課題としてバリューチェーン・需要・伝え方の3つにおいてギャップがあったと指摘がありました。そして産業的な観点から、自然資本のデータ化による世界経済への貢献がDIASには期待されていると述べられました。


本郷尚氏(三井物産戦略研究所 シニア研究フェロー)より「DIASのバリューチェーン」

 

基調講演「金融経済における環境・気象データの活用」
登壇者:近藤崇史(環境省環境経済課環境金融推進室 室長)

次の基調講演では、近藤崇史氏(環境省環境経済課環境金融推進室 室長)より、経済・金融分野から見た環境・気象データの需要と課題についての話題提供がなされ、データが活動の基盤である金融業界では、サステナビリティ対応に向けて、気候変動や生物多様性、人権といったデータの取り扱いが広がっていると述べられました。また先進的な企業や金融機関では気候変動データの収集や活用が進んでいるものの、そのリテラシーはまだまだ不足していると指摘されました。そうした中で気候変動データを取り扱うDIASへの期待は大きく、ユーザー支援をしていきたいと述べられました。


近藤崇史氏(環境省環境経済課環境金融推進室 室長)より「概念整理:経済・金融とデータの関係」

 

講演「第4期DIASプロジェクトの紹介と今後の展開」
登壇者:石川洋一(海洋研究開発機構地球情報基盤センター センター長)

第4期DIAS課題代表である石川洋一(海洋研究開発機構地球情報基盤センター センター長)による講演では、第3期DIASの振り返りと、今後の展開を発表いたしました。DIASは直近3年間で登録ユーザー数が1万人を超えるなど、気象・気候分野のプラットフォームとしては異例のペースでユーザーが増加しています。そうした背景として、d4PDFをはじめとする気候変動のシミュレーションデータが増えたことや、End-to-Endのアプリケーションの増加があったことを報告いたしました。特に2022年3月に公開された「絶景予測-Zekkei Explorer」は、自然資本である蜃気楼や雲海の発生予測データを活用した研究開発としてメディアにも取り上げられた好例であり、試験運用段階ながら積極的にテストユーザーを募集していると呼びかけました(リンク:https://diasjp.net/service/zekkei/)。こうした実績を踏まえ、第4期DIASは地球科学と情報科学を融合した研究開発を進めていきたいと表明しました。そして気候変動適応の実践のため、DIASにはよりオープンプラットフォームとしての役割が求められるとし、将来は代理店利用や民間のノウハウ採用も視野に入れたいと展望を語りました。


石川洋一(海洋研究開発機構地球情報基盤センター センター長)より「数字で見るDIASの現在(アカウント登録者数の累計)」

 

石川洋一(海洋研究開発機構 地球情報基盤センター センター長)より「数字で見るDIASの現在(「絶景予測-Zekkei Explorer」)」

 

パネルディスカッション― 気候・自然資本ビッグデータが切り開く金融・防災・ヘルスケアの未来―

■登壇者一覧
●モデレーター
本郷尚(三井物産戦略研究所 シニア研究フェロー)

●パネリスト
近藤崇史(環境省環境経済課環境金融推進室 室長)
防災分野:芳村圭(東京大学生産技術研究所 教授)
ヘルスケア分野:橋爪真弘(東京大学大学院医学系研究科 教授)
気候変動分野:横山天宗(SOMPOリスクマネジメント株式会社コーポレート・リスクコンサルティング部 上席コンサルタント)
生物多様性分野:久保田康裕(琉球大学理学部 教授)
プロジェクト推進:
服部正(文部科学省研究開発局環境エネルギー課 環境科学技術推進官)
石川洋一(海洋研究開発機構地球情報基盤センター センター長)

パネルディスカッションでは、基調講演の話者である本郷氏をモデレーターとし、「データバリューチェーン」をテーマに、立場や研究領域の垣根を超えた活発な議論が行われました。パネリストは、同じく基調講演の話者である近藤氏、防災分野から芳村圭氏(東京大学生産技術研究所 教授)、ヘルスケア分野から橋爪真弘氏(東京大学大学院医学系研究科 教授)、気候変動分野から横山天宗氏(SOMPOリスクマネジメント株式会社コーポレート・リスクコンサルティング部 上席コンサルタント)、生物多様性分野から久保田康裕氏(琉球大学理学部 教授)、プロジェクト推進の立場から服部正氏(文部科学省研究開発局環境エネルギー課 環境科学技術推進官)、海洋研究開発機構の石川を加えた7名です。


パネルディスカッションの模様

パネルディスカッションでは、それぞれ異なる視点から「データバリューチェーンの中で、誰が欠けているか、誰と組みたいか」「データバリューチェーンのエンドユーザーに何をどのように伝えるべきか」をキークエスチョンとして、意見が交わされました。

まず最初に、新たに参加したパネリスト4名が、それぞれの取り組みと、データバリューチェーンにおける自身の立ち位置について説明しました。

芳村圭氏(東京大学生産技術研究所 教授)は「Today’s Earth」(リンク:https://www.eorc.jaxa.jp/water/index_j.html)というJAXAと共同開発した全球陸域水循環の実時間モニタリングシステムについて紹介し、DIASの支援を受けた背景について説明しました。Today’s Earthにおいてはデータ作成からエンドユーザーによるデータ利用まで行っている立場から、データバリューチェーンにおいて広く問題提起していきたいと述べました。


芳村圭氏(東京大学生産技術研究所 教授)より「Today’s Earth」

次に橋爪真弘氏(東京大学大学院医学系研究科 教授)は、温暖化に伴う下痢症の過剰死亡シミュレーション研究を紹介しました。そしてDIASに期待することとして、オープンソースなウェブアプリケーションを用いた政策担当者や研究者のデータ活用があり、そのためにもIT技術者や気候変動専門家と協働していきたいと語りました。


橋爪真弘氏(東京大学大学院医学系研究科 教授)より「温暖化に伴う下痢症による過剰死亡者数」

また久保田康裕氏(琉球大学理学部 教授)は、世界中の森をめぐるマクロ生態学の研究者でありつつ、社会実装のために株式会社シンクネイチャーを起業した経緯と、データ取得からエンドユーザーへの提供までワンストップで行う同社の取り組みについて紹介しました。「J-BMP(日本の生物多様性地図化プロジェクト)」(リンク:https://biodiversity-map.thinknature-japan.com/)では、生態学情報をビッグデータとして電子化し、陸や海の生物多様性を分布地図に可視化する試みを行っています。データバリューチェーンにおいては、基礎生態学データの収集・分析・活用までワンストップでアプローチを行っていると述べました。


久保田康裕氏(琉球大学理学部 教授)より「日本の生物多様性地図システム(J-BMP)」

続いて企業からの登壇者である横山天宗氏(SOMPOリスクマネジメント株式会社 コーポレート・リスクコンサルティング部 上席コンサルタント)は、損害保険は気候変動の影響を強く受ける業種であるとし、DIASのデータを用いた気候変動リスクの定量分析の取り組みを紹介しました。こうした分析に関心を持つ上場企業は増えているため、銀行や鉄道会社といった社外にサービスを提供していると述べました。そしてデータバリューチェーンにおいては、研究者と民間企業の橋渡しをするサービスプロバイダー的な役割という認識があり、ユーザーである企業のニーズ把握が重要だと語りました。


横山天宗氏(SOMPOリスクマネジメント株式会社コーポレート・リスクコンサルティング部 上席コンサルタント)より「気候変動リスクの定量分析」

服部正氏(文部科学省研究開発局環境エネルギー課 環境科学技術推進官)は、これまでのDIASは防災や観光分野のアプリケーションを提供してきたことを踏まえた上で、新しいビジネスモデルとして、投資の流れを作る技術・サービスとしての可能性があると示しました。そしてデータバリューチェーンにおいては、横山氏と同じように、データをインテリジェンスに変換する翻訳者が求められていると述べました。


服部正氏(文部科学省研究開発局環境エネルギー課 環境科学技術推進官)より「本日皆様とお話をしたいこと」

 
これらの話題を踏まえ、まずデータバリューチェーンをカバーするEnd-to-Endなアプリケーション開発が議題にのぼりました。芳村氏は、異なるデータの掛け合わせから思いもよらないバリューが生み出されることがあるとし、DIASにはそうしたデータの発展可能性を期待したいと語りました。また久保田氏は、研究者でありつつ企業経営者でもある自身の立場について触れた上で、ワンストップなデータ提供のアプローチにおいては各工程を深堀りしづらく、セールスに課題があると指摘しました。これらを踏まえ、モデレーターの本郷氏は、限られた研究リソースを効率的に使うためには他分野とのコラボレーションが鍵であると整理しました。

コラボレーションに関して横山氏は、研究者との橋渡しをするサービスプロバイダーの役割の必要性を改めて語りました。損害保険会社で培った経験をもとに気候変動リスクを金額という数字に翻訳することで、企業の意思決定に寄与してきたと説明しました。特に企業のコストとベネフィットを策定するために、気候変動による損害リスクの大きさを金額で洗い出すことは重要であると述べました。


横山天宗氏(SOMPOリスクマネジメント株式会社コーポレート・リスクコンサルティング部 上席コンサルタント)より「データバリューチェーンにおける当社役割とDIASへの期待」

また環境省の近藤氏は、自然に関するデータをエンドユーザーが利用するまでには、2段階の翻訳プロセスがあると指摘しました。一次翻訳はデータが示す変化を金額に変えること、二次翻訳は金額の変化を企業の意思決定につなげることだといいます。エンドユーザーに近い立場である金融機関は、二次翻訳に携わる機関として、データリテラシーの向上に努める必要があると説明しました。


近藤崇史氏(環境省環境経済課環境金融推進室 室長)より「データ活用への課題:データのバリューチェーン」

データリテラシー向上のための方法として、文部科学省研究開発局環境エネルギー課 環境科学技術推進官の服部正氏は、データのガイドライン形成がひとつの要点だと指摘しました。また海洋研究開発機構の石川氏はデータ作成者としての立場から、データの利用にも専門知識が必要だと述べました。また石川氏はエンドユーザーが自分の欲しいものを理解するためには、異なる分野の人々による共同作業や議論が重要だとして、コミュニティとしてのDIASの役割を果たしていきたいと語りました。

また橋爪氏は、先に紹介したシミュレーション研究について、民間の大規模助成団体による研究公募がきっかけだったと明かしました。感染症について、こうしたニーズに応えるには論文発表だけでは難しく、政策決定者を含むエンドユーザーに情報をわかりやすく伝えることが必要であるとし、DIASのアプリケーション開発へのさらなる期待を語りました。

最後に本郷氏は、研究者にとっては、データがもたらす新たな価値に対する「気づき」が重要であるとまとめたうえで、DIASの今後のあり方について問いかけました。石川氏は、エンドユーザーのニーズを聞いて「気づき」を得るためには、利用者コミュニティの形成が重要であり、DIASをそうした新たな価値創造の場にしていきたいと改めて意見を表明しました。また服部氏は、DIASを支援する立場から、「気づき」と意志決定を近づける場としてDIASを位置づけた上で、気候変動や自然資本に対する産業領域を形成することで、日本経済を変革していきたいと展望を示しました。

 

閉会挨拶
登壇者:河野健(海洋研究開発機構 理事)

河野健氏(海洋研究開発機構理事)による閉会挨拶では、データの提供者、エンドユーザー、そして橋渡しをする中間組織の共同が求められていることを改めて実感したと述べ、今後も、データの社会活用の成功事例を積み重ね、DIASを発展させていきたいと抱負を述べました。

今後も事務局では、様々な分野が交わり「気づき」を生み出す場としてのDIAS運営の期待にこたえるべく、引き続き取り組みを進めてまいります。


河野健(海洋研究開発機構 理事)による閉会挨拶の模様

 

プログラム

13:30-13:40
開会挨拶
堀内 義規(文部科学省大臣官房審議官 研究開発局担当)
13:40-14:10
基調講演
本郷 尚(三井物産戦略研究所 シニア研究フェロー)
講演資料
14:10-14:40
基調講演2
近藤 崇史(環境省環境経済課 環境金融推進室長)
講演資料
14:40-15:10
講演
石川 洋一 (海洋研究開発機構 地球情報基盤センター長)
講演資料
15:10-15:20
休憩
15:20-16:30
パネルディスカッション
― 気候・自然資本ビッグデータが切り開く金融・防災・ヘルスケアの未来―
モデレーター

本郷 尚(三井物産戦略研究所 シニア研究フェロー)
パネリスト

近藤 崇史(環境省環境経済課 環境金融推進室長)
防災分野:
芳村 圭(東京大学生産技術研究所 教授)
パネル資料
ヘルスケア分野:
橋爪 真弘(東京大学大学院医学系研究科 教授)
パネル資料
気候変動分野:
横山 天宗(SOMPOリスクマネジメント株式会社 コーポレート・リスクコンサルティング部 上席コンサルタント )
パネル資料
生物多様性分野 :
久保田 康裕(琉球大学理学部 教授)
パネル資料
プロジェクト推進:
服部 正(文部科学省研究開発局環境エネルギー課 環境科学技術推進官)
パネル資料
石川 洋一(海洋研究開発機構 地球情報基盤センター長)
16:30-16:40
閉会挨拶
河野 健(海洋研究開発機構 理事)